ここで挙げるデータを参考にして、常に希望を持って前進してください。
治癒へのデータファイル001
氏 名: | 小川勇太さん(仮名) 男性61歳 |
臨床診断: | 胆嚢がん術後再発、腹膜播種 |
病理診断: | 高分化型腺がん(well differentiated adenocarcinoma) |
病 期: | 再発 |
病 歴: | 2010.03 胆嚢切除 2010.05.07 リンパ節廓清手術 病理:well differentiated adenocarcinoma 2010.06 TS-1開始、 2week投与/1week休薬 GEMは3コース目でWBC減少にて中止 2011.01 CT再発疑い 2011.08 CT変化なし、腹水あり 2011.10.14 PET-CT (右肺門リンパ節、胃周囲リンパ節、上行結腸腹膜播種部位) 2011.10.25 Apheresis 2011.11.09 樹状細胞治療 2011.11.14 IMRT 33.72Gy/6Fr/11D (右肺門リンパ節、胃周囲リンパ節、上行結腸腹膜播種部位) 2011.11.29 樹状細胞治療 2012.01.12 PET-CT評価 (以後04.09, 07.30, 11.05, 2013.02.12, 08.09も同様) |
治療部位: | すべてCR |
新 病 巣: | なし |
担当医のコメント
胆のうがんは膵臓がんと並び、極めて予後が厳しいがんとされています。今回小川さんの治療経過が良好な理由として、
①胆のうの原発巣が手術で取りきれていること
②病理検査の結果で、がん細胞が高分化型であることから、がんの中でも比較的増殖がゆっくりしている細胞であること
などがあげられます。しかし、再発を認めた2011年10月のPET-CT所見では、腹膜播種(赤矢印)が認められており、これはすでにがん細胞が腹腔内に広がっていることを意味し、極めて厳しい状況であったと推測されます。さらに、リンパ節転移が、右肺門と胃の小彎部(白矢印)にも認められました。この状況から、すでにがん細胞が血液中に侵入しているという事実を認識する必要があります。もし、PET-CTで再発を指摘された部位をコントロールでき、なおかつ、血液中に侵入したがん細胞も排除できれば、理論的には体内からがん細胞がいなくなるということになります。実際に治癒に至るためのステップとしては、まず、目に見えるしこりを精度の高い放射線(IMRT)の力をかりて処理します。同時に、HITVを用いてしこりをワクチン化すると、がんに対して特異的に攻撃性のあるCTL(キラーT細胞)が血液中に誘導されます。これによりCTLは、長期間常に体内で作られ続け、血液中のがん細胞を排除することが可能になるのです。
治癒へのデータファイル002
氏 名: | 山本一男さん(仮名) 男性71歳 |
臨床診断: | 胃がん術後再発、左鎖骨上リンパ節、傍大動脈リンパ節転移 |
病理診断: | 腺がん |
病 期: | 再発 |
病 歴: | 2003/04 背部痛 2003/04/24 進行性胃がん診断、左鎖骨上リンパ節転移 病理:腺がん 2003/05/05 TS-1 + CDDP 2 コース 2003/07/16 胃亜全摘 2003/09/19 CEA 上昇 2003/09/30 CTにて傍大動脈リンパ節転移 2003/10/15 – 2004/11 Weekly PTX 3 week(+), 1 week(-), 13コース 2004/12/10 – 2005/05/25 CPT-11 + MMC, 10 コース 2006/01/31 Apheresis、左鎖骨上リンパ節より生検、初代培養開始 2006/03/02 Cyclophosphamide 800mg DIV 2006/03/06 DC 2006/04/27 PET-CT評価(1): CEA減少 2006/10/28 PET-CT評価(2):左鎖骨上リンパ節、傍大動脈リンパ節転移 PR、CEA上昇 2007/04/25 PET-CT 評価(3):左鎖骨上リンパ節、傍大動脈リンパ節転移 PD 2007/05/01 DC 2007/05/07 放射線治療 30Gy/10Fr/14D (左鎖骨上リンパ節、傍大動脈リンパ節) 2007/05/28 DC 2007/06/18 PET-CT評価(4):治療部位 PR、CEA低下 2007/09/19 PET-CT評価(5):治療部位 CR |
図1
画像上2枚:治療前のPET-CT画像で、左鎖骨上と傍大動脈リンパ節に転移が見られる
画像下2枚:抗がん剤とHITVの治療後の画像
両部位ともに縮小傾向を認めCEAも減少するが、治療開始から6カ月後には再上昇を始める。
図2
画像左:放射線+HITV治療(治療型ワクチン)前のPET-CT画像、左鎖骨上リンパ節2か所と傍大動脈リンパ節1カ所(矢印)に再発巣が見られる
画像中央:治療型ワクチン後5カ月のPET-CT画像(CR)、腫瘍の消失と同時に新しい病巣も認められない
画像右:治療型ワクチンから約1年後のPET-CT画像(CR)、新病巣も認めず
図3
腫瘍マーカー(CEA)は体内のがん細胞が産生する糖タンパクで、正常値は≦5pg/ml。この値が上昇すると、体内のがん細胞の総量が増加している可能性が高い。胃がんの術後再発で、2005年10月から予防型ワクチンを併用したがCEAは127まで上昇、年末から抗がん剤とHITVの併用により一時的に低下したが、正常値までは下がらず。2006年10月から再上昇を始めたため、放射線治療とHITVの併用にて、その後CEAは速やかに正常化。以後現在に至るまでCEAは正常値を維持している。
図4
上左図:山本さんの血中のCTLに対して、山本さん自身のがん細胞を作用させると、自己がん細胞に対する強い抗腫瘍効果を認める(青線)。しかし同じ胃がんでも他人のがん細胞には、あまり高い抗腫瘍活性は認められない(緑と赤の線)。
上右図:山本さんの胃がん細胞とCTLの電子顕微鏡写真。CTLはがん細胞に接触し、パーフォリンという物質で細胞膜に穴をあけ、ガンマ・インターフェロンをがん細胞に注入する。
担当医のコメント
山本さんは2003年春に胃がんの診断を受けましたが、そのときすでに左の鎖骨上にリンパ節転移がありました。この状況は胃がんの細胞がリンパ管を流れて鎖骨リンパ節に転移をおこし、血液中にがん細胞が入ってしまったことを意味します。早期のがんでは細胞が胃の近くのリンパ節転移にとどまっており、がん細胞がまだ血液中に侵入していないので、手術ですべての病巣が取り切れて再発のリスクが少ないのです。
5月から抗がん剤治療の後に手術を受けられましたが、その年の秋には新たに大動脈の近くのリンパ節に転移をおこしました。その後、2005年5月まで抗がん剤治療を受けられ、ハスミワクチンとの併用も行ない、一時は病状のコントロールもついていましたが、翌年2006年1月には左鎖骨上と傍大動脈リンパ節に病巣が再燃したため、HITV療法に踏み切りました。
それまで100以上まで上昇していた腫瘍マーカーCEAは、抗がん剤と樹状細胞の併用によるHITV(図1)後には減少を始めましたが、正常値までには下がりませんでした。そしてCEAは再度上昇を始めたため、放射線と樹状細胞を併用したHITVを開始したのです。HITV療法終了4カ月後にはCEAは正常値まで回復していました(図3)。以来、現在に至るまで、再発の兆候は認められず(図2)、今は通常の生活に復帰されています。
山本さんはHITV療法が開発されて間もない時期に治療をお受けになられており、現在まで治癒されている方々のなかで2例目に当たります。
山本さんにはその後のHITV療法の研究に多大な貢献をしていただいています。そのひとつにがん細胞の培養系の樹立があります。HITV療法を開始する直前に、左の鎖骨上リンパ節から採取したがん細胞が、培養液の中で増え続けているのです。山本さんは、治癒してからすでに時間が経過しているため、血液中のCTLは多くありませんが、がんに対するメモリーは残っています。以前から共同研究を行なっている米国メリーランド州立大では、山本さんのリンパ球とがん細胞を混合培養することで、新たな事実が分かってきています。そのひとつに山本さんのCTLは、他の胃がんの細胞より、自己のがん細胞に対して特異的な攻撃性があるということです(図4)。