●がん年齢に達したら樹状細胞の活性化に努める
がんの治療は手術、抗がん剤や分子標的薬剤、放射線治療という標準治療により、腫瘍を取り除くことから始まります。しかし、がんという病気はいくら早期であっても再発というリスクを伴い、もし再発があると治癒が難しくなってしまうのが現状です。
主治医は再発を知ると、患者さんの余命を推測します。患者さんは主治医からいわれるままの治療を受け、あげくの果てに余命宣告と緩和ケアを勧められてしまう――。そこで患者さんはびっくりして、まだ何か助かる方法はないかとインターネットの検索に心血を注ぐ……。これが現代のがん治療の現実ではないでしょうか。 こうした絶望のスパイラルに陥らないための「転ばぬ先の杖」は何かというと、〝免疫療法を上手に使いこなすこと〟というのが結論かもしれません。なぜなら、免疫とは人が生来自然を生き抜くために備え持った貴重な道具だからです。
免疫療法を核にした場合の健康維持、がん予防・治療の流れとしては、まず、がん年齢に達したら、常に樹状細胞の活性化維持に努め、がんにならないように気をくばることが大切です。そして、もしがんと診断されたら、まず手術を受けて、術後は再発を予防するために「予防型ワクチン」等で免疫機構にがん情報を与え続ける――。万一再発が見つかった場合は「治療型ワクチン」を用い、必要に応じて抗がん剤や分子標的薬剤を併用して治癒を目指します。もし診断がついた時点で、すでにⅣ期などの進行がんであった場合は、手術での治療は難しくなるため、治療の主力を「治療型ワクチン」に移すという選択肢もあります。「予防型ワクチン」と「治療型ワクチン」の違いは、結局のところ、樹状細胞にどのようながん情報を与えるかにつきます。情報量が少なければ予防型に、十分ながん情報を与えることができれば治療型になります。たとえば、がん抗原の〝合成ペプチド〟や死んだがん細胞の膜に由来する抗原は、がん情報としては十分ではないので、予防目的の使用ということになります。もし、十分ながん情報を樹状細胞に与えようと考える場合は、生きたがん細胞と樹状細胞とを直接接触させ、未知のたんぱく情報も含めて樹状細胞に提供することが必要です。結果、血液中にがんを攻撃する兵隊のリンパ球(CTL)が、3~4週間で誘導されてくるのです。
優秀な兵隊をいかに効率よく誘導させるか——。これが、がんワクチンに課せられた重要な使命だといえるでしょう。以上のように、がんの免疫と樹状細胞とは大変重要な関係にあります。だからこそ、2012年のノーベル生理学・医学賞が、樹状細胞の研究に与えられたのでしょう。
●「予防型」と「治療型」の効果
「予防型ワクチン」と「治療型ワクチン」の効果の違い、すなわち、誘導されるCTLの質の違いは、どんなところへ影響してくるのでしょうか?
もちろん、質の高いCTLは抗原認識度が高くなりますから、数多くのがん細胞を異物認識できるということになります。がんのしこりは、すべて均一ながん細胞で構成されているのではなく、多種多様の抗原を持った細胞が敷石状に存在するとされています。正常細胞と基本的に異なる点はここにあり、がん細胞1個ずつが別の顔をしていると考えた方が理にかなっているのです。
ですから、治療にはなるべく多くの情報量を持ったCTLが有効です。さらに、再発がんとなると、多彩な性格を持ったがん細胞が血液中に流れて行きます。そして、血液中で細胞分裂をおこない、徐々にしこりへと変化して肺や骨といった微小血管に詰まり、次の転移を起こして行くのです。
転移をしたがんは、転移先でさまざまな分化をとげていきます。ですから、質の高いCTLのもっとも大切な役割は、幅広い抗原認識能を持つことによる血液浄化にあるといえるでしょう。
質の高いCTLを誘導できれば、その分、血液中のがん細胞を消し去ることができるというわけです。血液からがん細胞がクリーンアップされれば、当然ながら新しい転移は起きにくくなります。ということは、あとはすでに転移している病巣を処理できれば、がん治癒へ至る可能性がぐっと高まるわけです。では、すでに転移している病巣も、CTLで消すことはできないのだろうか……?
他の細胞と同じく、免疫細胞(エフェクター細胞)にも力の限界があります。目で見えるしこり、つまり、3~5㎜以上のしこりをCTLやNK細胞で消失させることは困難です。
一般的に目で見えるしこりは、やはり抗がん剤や放射線治療の手を借りる必要があります。しかし、HITV療法の場合、誘導されたCTL単独でも1㎝以下のしこりであれば、約6割の確率で消失させることが可能です。これは画期的なことといえるのではないでしょうか。
●費用も考えよう
自分の目的が“がん予防”なのか、“術後の再発予防”なのか、“再発進行がんを治癒”させるためなのかで、「予防型ワクチン」か「治療型ワクチン」か選びましょう。
そのとき、費用のことも考える必要があります。ハスミワクチンを予防目的で使用する場合は費用負担もそれほど多くなく、家計への負担は少ないといえるでしょう。しかし、「治療型」となると従来血液中には存在しない樹状細胞やメモリー細胞などをあらかじめ作製し、冷凍で保存するため費用も高額になってきます。
いずれにしろ、再発したがん病巣の数が多いほど治療費も上昇してしまいます。ですから、再発をなるべく早く見つける努力を惜しまないことが大切です。つまり、再発に対しても早期診断、早期治療が重要なのです。
がんは乳がんを除いて、通常3年間再発がなければ順調に経過するケースが多いといわれています。つまり、術後3年間は医者任せにするのではなく、自分で腫瘍マーカーの変化や、場合によっては画像診断を定期的に行い、再発を自己管理する姿勢が大事なのです。